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身も心も捧げる者 -2-



一週間が経過した日曜日、医師弓永さやかの拘束から開放された紫苑裕未は双子の妹紫苑裕香の任務のサポートに就いていた。
「不思議ですね。私はこの時代の人間ではないのに判らない物のほうが少ないなんて…」
裕未と裕香は自分のことを『るり』と名乗る女邪剣士ルリーザと街に来ていた。
「この知識は邪竜帝国に操られていたときに与えられたモノなんですね」
「石動博士から聞いた話では、るりさんは遥か昔、邪竜帝国と戦っていた私たちの先輩ってことでしたが」
紫苑裕未はさり気なく周囲を警戒しながら『るり』に話しかけた。
「はい 信じて頂けるかはわかりませんが、私は父と仲間たちと共に邪竜帝国の神殿から邪竜王が人を支配するために
 用意していた竜珠を盗み出し、その力を使って邪竜王を倒そうとしていました。ですが、私は神殿から逃げ出す途中で
 邪竜兵に捕らえられてしまって… それから先の記憶はありません。気が付けば石動研究所のベッドの上でした。
 石動博士のお話を伺い、文献も拝見させて頂きました。あれは間違いなく父の残した…」
「わたしは信じていますよ るりさん」
裕香が涙をこらえ話ている『るり』の肩に優しく手をやり微笑んで見せた。
「裕香さん…ありがとう  でも、裕未さんは私のことを…」
「ごめんね でも、るりさんはずっと姉さんを狙って…… 姉さん」
「ええ、ずっとついて来る。おそらく邪竜兵ね」
服装と不釣合いなサングラスをかけた集団が裕未たち三人のあとをずっとつけていた。
「ここでアイツらに襲われるのはマズイ。わたしが囮になって引きつけるから裕香はるりさんをお願い」
「うん 気をつけて、姉さん。 るりさん、遅れないでついて来て下さい」
「えっ、あ、はい 私の所為で…すみません 裕未さん」
「気にしないで、これがわたしの仕事だから」
冷たく言い放った裕未が相手の存在に気付いたフリをして走り出すと
裕香と『るり』は人ごみを利用してその場を逃げ出した。



大通りから少し脇に入った路地で裕未は邪竜兵に囲まれた。
「ようやくあなたを追い詰めることができました」
裕未を取り囲んでいる集団の一角が開き、冷たい眼をしたギールが姿を現した。
「お前はギール!!」
「私のことを覚えてくれていたとは」
「なるほど、狙いは『るり』…ルリーザじゃなくて わたしだったみたいね」
「はい 我々は敗北した者などに興味はありません」
「情けない。爬虫類の考えた姑息なワナにひかかるなんて…」
裕未はドラゴンレッドに変身しようと胸の前で両手をクロスさせた。
「おっと危ない、竜珠の力は使わないで下さい」
ギールはカメの甲羅を裕未に見えるように取り出すとその模様の一つを鋭い爪の先で押した。
「な、なに?」
轟音とともにビリビリと空気が震え、人々の叫び声が裕未の耳に届く。
「ギール! なにをしたの!!」
「爆弾 と言う物です。 大人しくしてもらうために一つ使わせて頂きました」
「な、なんてことを…」
「私にこれを使わせたくなければ、大人しく言うことを聞いて下さい」
「卑怯なマネを… 正々堂々わたしと勝負したらどうなの!!」
「仲間が到着するまでの時間稼ぎですか?ムダです。それに私は躯よりも頭を使うほうが好きなので」
「チッ…爬虫類らしくないヤツ…」
裕未はクロスさせた腕を崩さずギールを睨む。
「で、わたしをどうしたいの!」
「紫苑裕未 我が主があなたにお会いしたいと申しております」
「邪竜王がわたしに? 爬虫類に興味を持たれても嬉しくないわ」
「ルリーザを倒した戦士と会って話がしたいと申しております」
「それってまさか わたしに爬虫類の巣に来いと? 冗談は顔だけにしてよ!!」
「わたしは『大人しく言うことを聞いて下さい』と申し上げたつもりですが…」
「ギール? アッ!!」
ギールの指が動き2度目の轟音が轟く。
「あなたはこの街を破壊するおつもりですか? こう見えてもわたしは気が短い、次は全ての爆弾を爆発させます。
 紫苑裕未 わたしと一緒に来てくれますね?」
「わ、わかったわよ… あなたの言うとおりにするわよ」
裕未は唇を噛みしめながら両手を上げて抵抗の意志が無いことを示すと、ギールは顎で邪竜兵に裕未を捕らえるよう指示した。
「汚い手でわたしに触るな!! もう抵抗はしない、大人しく指示に従うって言ってるでしょう」
話ながら両手を後頭部の後ろに回した裕未をギールはしばらく見つめて口元を歪ませた。
「いいでしょう。 さぁ、こちらに」
小さく頷き歩き出した裕未はギールたちに気付かれないよう紅い竜珠が付いたネックレスを外した。
(これを邪竜帝国に渡すわけには行かない…)
そして表通りに止めてある黒の1BOXに乗るよう指示された裕未は、つまづいたフリをして竜珠を路肩の植え込みの中に忍ばせた。
「こういう時は、これを着けるんですよね」
邪竜兵に挟まれて座っている裕未の顔にギールはアイマスクを被せると部下に車を発進させるよう命令した。



移動し続けた1BOXは昼間でも光が全く差し込まない黒い霧に包まれた森の中に止まった。
「ここからは少し歩いて頂きますが、その前に用意しておいたこれに着替えて下さい」
ギールが茶色い塊を裕未の膝の上に置いた。
「爬虫類の皮? どうしてあなたたちの皮なんかを身に着けなければならないのかしら?」
「別にそのままでも構いませんよ。ただ、この黒い霧は人体に影響はありませんが…」
ギールが窓を開けて部下が持っていたハンカチを車外に出すと、瞬時に黒く変色したハンカチがボロボロと朽ち落ちていった。
「裸で我が主とお話して頂く事になりますが、よろしいですか?」
「うっくぅぅ…  わかった、わかりました着替えます。 一人にして頂けますか?」
「おっと、これは失礼しました。我々は外でお待ちしております」
車内に一人になった裕未はルームランプの薄暗い明かりの中で、ギールから渡された首から下を覆い尽くす
邪竜兵の抜け殻のようなスーツのチェックをはじめた。
(邪竜兵の抜け殻みたい… 表面は乾燥してカサカサしてるのに柔らく伸縮性がある)
裏返して内側のチェックも怠らない。
(見れば見るほど気味が悪いスーツね…ツルツルして手触りは良いけど、全身に走っているこの血管みたいな筋と
 このクロッチの突起物は……中に入る大きさじゃないけど…)
スーツの内側、クロッチ部に身に着ければ陰部にあたる位置に親指の先くらいの突起物が一つ付いていた。
「イヤな感じだけど…特にこのイボの中に何かが入っている訳でも無さそうだし、裸で邪竜王と対峙するほうが…」
突起物を抓んで確認した裕未はスーツを座席の上に置くと衣服を脱ぎ、着替え始めた。
(邪竜王が私と会って話がしたい? いったい何を話すの… その後はどうなるのよ… 竜珠を奪われる訳にはいかないから置いて来たけど…)
今になって竜珠を植え込みに忍ばせた事を後悔した裕未の体が小さく震えだした。
(何を弱気になってるの裕未!! 爬虫類ごときに負けないで!!)
両手で両頬を打ち、気合を入れ直した裕未は意を決し、スーツに足を通した。
前に切り込みが入ったスーツに体を入れた裕未は、もしもの時に動作の邪魔にならないようしっかり体にフィットさせると
開いたままの胸元の弛みを引っ張り、微かに粘着性がある身頃の端通しを重ね合わせて車を降りると軽く体を動かしてスーツを体に馴染ませた。
裕未が気にしていたクロッチの突起も体に触れているハズだったが気になるものではなかった。
(へェ 意外と機能的じゃない体がスムーズに動く。 わたしの体の一部みたい…)
「よくお似合いです。我が主もお喜びになられることでしょう。 さて、行きましょうか」
「爬虫類に褒められても嬉しく…?」
(邪竜王が喜ぶ? どう言う意味よ…)
ギールの言葉が気になり、スーツで覆われた手を見つめた裕未は言い知れぬ不安を覚えた。

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妖しいスーツを着ちゃいましたね。
このスーツがいずれは・・・なのかな?
先がすごく楽しみです。
わくわくしながら待っておりますねー。

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ルリーザとは違うスーツでしょうか?
邪竜王は何故裕未を選んだのでしょうか?そこらあたりが気になりますね~。
スーツの陰部にある突起物が何を意味するのか、続きが楽しみです。

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ありがとうございます

文字を少し大きくして見ましたがどうでしょう?
少しは見やすくなったでしょうか



<舞方雅人さん>

>>>このスーツがいずれは…
妖しいスーツ、舞方さんはどんな使い方をしますか?(笑
実はこのスーツはですね……なんですよ


<metchyさん>
ルリーザさんが身に着けていたスーツと裕未が着たスーツはですね……なんです
スーツの突起部はご想像通り?の使い方になるかと(笑
>>>邪竜王は何故裕未を選んだのでしょうか?
『ルリーザを倒した戦士、竜珠の力を纏いし戦士』だからなのです
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