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身も心も捧げる者 -3-



青とも黒とも表現できない光で満たされた爬虫類が棲むに相応しいおどろおどろしい空間。
その奥に設けられている玉座の前に案内された裕未。
だが、玉座の周囲は黒い霧が立ち込めたように暗く何も見えない。
「邪竜王様 新しい邪剣士をお連れ致しました」
「なっ!!」
ギールの口から出た思いもよらない言葉に裕未の言葉がつまる。
「グフフフ ご苦労であったギール。この禍々しい力、邪剣士に相応しい。気に入ったぞ」
「わたしを邪剣士にする? 邪剣士に相応しい禍々しい力を持っている? ふざけないで!!」
「ふざけてなどいませんよ。紫苑裕未 あなたは我々邪竜帝国を八つ裂きにしたい、一匹残らず屠りたい
 そう言う気迫で満ち溢れています。それは我らが人間を襲い楽しんでいるのと同じ、あなたは我々を屠り楽しんでいる」
「違う!! 一緒にしないで!!」
ギールを睨む裕未の眼は殺気に満ち溢れている。
「クックックッ 同じですよ。あなたなら最高の邪剣士に」
「黙れ!! お前たちと一緒に…えっ!?」
声をあげながらギールを指差した裕未は周囲の光を反射して妖しく輝いている指先に目が止まった。
「こ、これは… いつのまにこんな…」
身に着けるときは茶色く干乾びてカサカサだったスーツは本来の美しい輝きを取り戻し黒光りしていた。
「クックックッ…」
眼をギラつかせて、どこか含みのある笑いを見せるギール。
「まさかギール、わたしを騙して… なによこんな物!! えっ!?」
身頃の重なりは綺麗に張りつき、どこが境目だったのか判らなくなっていた。
自分の胸元を必死になって弄っている裕未をギールが嘲笑いながら
「こんなに簡単にワナにかかるとは思いませんでしたよ。クックックッ そんなに必死にならなくても
 あなたの心が我らのモノになれば、自由に脱げるようにしてあげますよ」
「うるさい!! こ、こんなもの脱げなくても、何をされてもわたしは爬虫類の仲間になどならない!!」
「仲間? クックックッ 勘違いしないで下さい。あなたは邪竜帝国の奴隷になるのですよ」
「ど、奴隷ですって!! こんな物着せたくらいで、爬虫類の分際で調子に乗るんじゃないわよ!!」
「その爬虫類の命令にあなたは悦んで従い、媚びるようになるんです。 クゥクックッ…」
「このヘビヤロウ…言いたい放題…」
裕未は怒りで全身を震わせ、今にもギールに飛び掛ろうとしていた。
「おっと 紫苑裕未、大人しくしていないと…」
裕未が立っている足元の床が白く明るくなり、彼女がギールに拉致された街の風景が映し出されると
ギールは爆弾を起爆させるカメの甲羅を取り出して、その一つを迷うことなく押した。
「ギール!! キサマ、約束まで破る…えっ!?」
爆発に巻き込まれた人々の逃げ惑う姿、悲鳴を耳にした裕未が自分で自分の体を抱きしめる。
「あぁ…」(な、なに…どうして…)
「ウン? 今の声…どうかしましたか?  まさか逃げ惑う人間の悲鳴を聞いて感じて」
「バ、バカじゃないの! そんなことあるワケ…」
図星で動揺している裕未の様子を確認しながらギールがまた一つ爆弾を起爆させた。
「ギール! やめぁぅっ…」(どうしてこんなに……まさか…ホントに悲鳴を聞いて…)
背筋がゾクゾクし全身の毛が逆立つような快感を覚えた裕未は小さく声をもらして身を震わせた。
「クックックッ…心地よい響きでしょう」
思惑どおりの反応を見せる裕未を見やりながら、続けて爆弾を爆発させるギール。
「やめっはぅっ… そ…そんな…わけ…」(うそ…いま…わたし…… …なかで…なにか…)
軽い絶頂を迎えた裕未は陰部に違和感を感じたが、一つまた一つと爆発が起こるたびに違和感は薄れ、身体は素直な反応をみせる。
「はうぅぅぅ…」
数回目の爆発で立っていられなくなり、堪らず両膝をついた裕未が青黒い天井を仰ぎ、だらしなく開いた口元からこぼれた涎が首から胸元へと流れ落ちた。
「どうですか? 心地よい美しい悲鳴は… ゾクゾクして堪らないでしょう。クックックッ それはあなたが我々と同じ存在だと言う証なのですよ」
「そ、そんなこと……うふぁ…」(…頭が…しびれて…なにも………悲鳴が…キモチィィ……)
虚ろになった瞳を彷徨わせ、ぺたりと床にお尻をついた裕未。
「わたしも逃げ惑う人間の悲鳴を耳にしているとゾクゾクします。あなたはわたしと同じなのですよ」
「わたしが…ギールと…おなひぃぃ…」(も…もう…がまん…できない…)
大きく背中を反らせた裕未の手が胸と陰部を弄りはじめた。
「グフフフ ギール、何をしている。さっさと兜を被せてやればどうだ」
「はい、邪竜王様 このメスも兜で自我と記憶を奪い、邪剣士にするつもりでしたが、ルリーザのように兜を割られ
 人間に取戻されては面白くないと思いまして… このメスは新しい手法で邪竜王様に従う邪剣士に仕上げようかと」
「グフフ 新しい手法とはなんだ?」
惚けた顔で胸と陰部を弄り続けている裕未を邪悪な笑みを浮かべたギールが見やる。
「はい、邪竜王様 紫苑裕未に着せた皮はメスの邪竜兵の皮を剥ぎ取り、細工を施した物にございます」
「グフフフ メスの邪竜兵の皮に細工だと?」
「はい 皮の内側にオスの生殖器と思考を麻痺させ心を惑わす薬、体を麻痺させる薬、快楽を昂める薬を忍ばせておきました。
 それら全て、このメスの体液を吸収して効果をあらわします」

裕未が身に着けたスーツは装着者の体から分泌される体液を吸収すると本来の姿に戻り、能力を発揮するように細工されていた。
スーツの裏側にあった血管のような筋が体から発散された水分を吸収してクロッチの突起物に集められる。
水分を吸収した突起物は先端から麻酔効果のある物質を出しながら肥大化、麻酔で気づかれる事なく陰部に侵入すると
微かに振動して秘液の分泌を促し、秘液を吸収すると媚薬効果のある物質に作り変えて、突起物の先端から分泌する。
そして、スーツ表面に漆黒の輝きを取戻すと催眠誘導効果のある物質を気化させてスーツ表裏面から放出。
皮膚と呼吸から物質を吸収した装着者は気付かないうちに催眠状態に陥り、媚薬の効果で気持ちを昂められた。

裕未はギースの企てにまんまと嵌まり、ギースの言葉と陰部の侵入物にいいように操られていた。
ギースが巧妙な誘導術で裕未を誘導しながら手元のスイッチを押す。
すると偽りの映像と音が流れ、音に反応して裕未の陰部に侵入した突起物が激しく躍動し快楽をあたえる。
裕未は催眠効果と快楽で逃げ惑う人たちの姿、悲鳴を聞いて感じていると錯覚させられていた。


「グフフフ ギール、手間をかけてこのメスを邪剣士にする意味が我には理解できぬ」
「クックックッ ところで邪竜王様、先日のアレ はいかがにございますか」
ギールはルリーザ敗北の報告を行ったときに、邪竜王に預けた実験体の女の話を持ち出した。
「グフフフ 我が精を放ってもアレは生きておる。人間のメスの蜜と我が精が合わされば猛毒となりメスは死ぬはず。
 だが、アレは未だに生きておる。どうしてなのだギール」
「はい、邪竜王様 アレはわたしの実験で人の姿をした邪竜のメスに生まれ変わっております」
「グフフフ 人の姿をした邪竜のメス…」
邪竜王が玉座を離れ、裕未に近づき顔を覗き込んだ。
「グフフ ギール、このメスはアレと同じにできぬのか」
「クックックッ そのつもりにございます。邪竜王様」
「グフッグフッ できるのか、ギール」
「はい、邪竜王様に身も心も捧げる新しい邪剣士に紫苑裕未を作り変えます。いまはその準備段階にございます」
「グフッグフフフ ギール、詳しく説明しろ」
「はい、邪竜王様」
ギースは自慢げに自分が得た知識で行った実験の説明と報告をはじめた。

Awakening to darkness - 変心 -



「みんな、私よ、麻由美よ」
「何だよ。この『ウィルス』怯えてるぜ」
「鉄平、私、麻由美よ。『ウィルス』じゃない。わからないの」
「美幸さん、あたしに殺らせてよ。麻由美なんかよりあたしのほうが強いとこ、みんなに見せたげるよ」
「泉水ちゃん…どうして……」
「泉水、そんなことわかってたわよ。でも、麻由美がわがままで言うこと聞かなかったのよ。
 ホントにあの娘、邪魔だったの。居なくなって助かったわ。ニムダに感謝しなくちゃ」
「美幸…さん……そんな…」
「そういえば、あいつどうなったのかな」
「鉄…」
「ま、いっか。あいつがどうなろうと関係ないよな」
「…平…」
「そうですよ。あの人は僕達バスターズのお荷物だったんですよ」
「それは言えてるヨ」
「淳…珍味……あなたたちまで……どうして…」
「早いとこ、この麻由美に似た『ウィルス』、『駆除』しちゃおーよ。
 あたしさぁ、こいつ見てるとなんか、ムッカツクのよねぇ」
「うそよ……そんなこと………みんなが……みんなが…わたしを…」
「じゃぁいくよ~。『 Get rid of vermin 』スラッシュフォーメーション
 うざい麻由美は消えちゃえ~。えくすたーみねーしょーん」
「…やめて………やめてぇぇ」
「大丈夫よ『ミメイル』。私が『ミメイル』を守ってあげるから」
「…あ…あなたが…どうして……それに…わたし…麻由美よ…『ミメイル』じゃない」
「なに言ってるの。あなたは『ミメイル』。私の大切な『仲間』」
「わ、わたしが…『ミメイル』…あなたの…なかま………ちがう…そんなこと…ない…そんなこと…」
「違わないわ。いい加減に目を醒ましなさい」
「ち、ちがう……こんなの…ユメ…だよ………みんな…なかま……だよね………」

麻由美が『クレズウィルス』に感染させられて1週間。
その間、クレズは絶えず自身のウィルスを麻由美に与え続け、その度に訪れる絶頂感は
麻由美の意識にクレズの存在を深く刷り込んでいた。そして、仲間との絆を断ち切る為に見せられる『夢』。
それらは確実に麻由美を別のモノへと変えていた。


クレズが腰掛けるソファーの隣りで麻由美は目を覚ました。
「目が覚めた。『ミメイル』」
(うふふ、麻由美の瞳から『光』が消えてるわ………でも、
 どうして、この名前しか思い浮かばなかったのかしら…『ミメイル』)
「ク、クレズ…」(この人…敵…よね………わからない…でも…この人…)
麻由美は敵意と戸惑いの表情を見せる。
「私のこと…憶えてるの?」
(この娘…まだ完全にはウィルスに冒されていないようね。かなりの効果は表れている見たいだけど)
「あなたはクレズ…わたしの……敵…」
「…違うわ…私はあなたの敵じゃない。私のこと…何も憶えていないの?」
切ない表情で麻由美を見つめるクレズ。
(…敵…じゃないの………)麻由美から敵意が消え戸惑いだけが残る。
「……可愛そうな『ミメイル』…奴等に昔の記憶を消されてしまったのね」
「奴等?……昔の記憶?」
「そうよ。あなたは私に全てを捧げた『ウイルス』の戦士だったの」
「わたしが…『ウィルス』の戦士…」
麻由美の言葉にクレズは小さく頷くと話を続けた。
「あの日…私とあなたが初めてバスターズと遭遇したあの日。
 バスターズの圧倒的な力の前に、私たちは瞬く間に窮地に追い込まれた。
 そして、あなたは深手を負った私を助ける為に独りで……………でも、あなたは生きていた…
 いえ、生きているとは言えなかった。私の前に現れたのは『ミメイル』の姿をした心のない操り人形。
 あなたは下劣な人間共に偽りの記憶を植え付けられ、仲間の私たちを敵だと思い込まされていた。
 そんなあなたの姿を見ているのが辛かった…助け出したかった…もう一度…あなたを抱きしめたかった…」
困惑の表情を見せる麻由美をクレズは強く抱きしめた。
「ホントにわたし…『ウィルス』の戦士…だったの………ちがう…わたしはバスターズ…ホワイトバスター
 それに…『ミメイル』じゃない……わたしは…麻由美…白石麻由美よ…」
そう呟く麻由美の唇にクレズの唇が重なる。
「うっ…ん…ん…」クレズから逃れようと抵抗する麻由美に、
「…違う…あなたは『ウィルス』の戦士『ミメイル』……私の『ミメイル』なの…思い出して…」
再び、麻由美の唇に自分の唇を重ね、口移しに自身のウィルスを流し込んでゆく。
(なん…だろう……この懐かしい感じ…………気持ちイィ…この人は…)
麻由美の瞳が虚ろになり、今度は抵抗せずにクレズに抱きついて喉を上下させていた。
(そう。もっと私を受け入れなさい。そして、私のモノになりなさい)
「どう『ミメイル』、気持ちイイ?」
「は…い……とっても…気持ち…イ………い…いや…やめて……わたしは…麻由美…ホワイト…」
「まだそんなこと言って… あなたは『ミメイル』よ」
クレズが麻由美の秘所に手を遣り優しく撫でる。
(もう、濡らしちゃって…身体は『ウィルス』の快楽に素直に反応している。あとは……)
「あぁぁぁぁぁぁ…も…もっと……きもちぃ…いい…」
(ち…がう…わた…しは…ばすた…ず……わたしは……まゆみ…ほわ…いと…)
「『ミメイル』。もっとイイことしてほしいの?」
「…はぃ」(い…や…やめて……ばす…たーず……わたし…まゆ…み…)
「じゃあ、してあげる。でも、私にもイイことしてくれるわよね? どうすればいいか……わかるわよね」
(…わた…しは…ま…ゆ…………みめいる………ワタシハ…ミメイル…クレズ…サマニ………スル…)
「ハイ…」
麻由美は腰掛けているクレズの前で両手と両膝をつき、スーツで覆われたクレズの秘所に口づけをする。
その口づけを中心とした波紋がスーツに広がり、クレズの白い肌が次第に露わになってゆく。
そして、誘うように露わになったクレズの秘唇に、麻由美は優しく唇を重ね合わせた。
「あっ…いぃぃぃ…」
(新しい…記憶の…書き込み…は…順調に…いってるみたい……この娘…)
「あくぅ…うぅぅん…」
麻由美の愛撫にクレズの白い肌がピンク色に上気していた。
(この娘…うっく…イイ…こんなに…あぁぁ…感じて…いぃっく…)
クレズウィルスに冒された麻由美の愛撫はクレズの絶頂感を満たすまでに然程の時間を要さなかった。
(だ、だめ…もう…イッちゃう…なんで…こんなに…感じるの…この娘…イイ…わぁ……)
「ミ…メイル…ご褒美よ……さぁ…お上がり…なさ…イッ…くぅ…」
「ハイ…クレズ…サマ……オオセノ…ママニ…」
(うふ…クレズ様…ですって………こんなに…感じたの…はじめて…)
麻由美はクレズの秘所から溢れ出す妖しい輝きを放つモノを恍惚の表情で喉の奥に流し込んでいる。
クレズは絶頂感に満足げな表情を見せながら
「さぁ、『ミメイル』…次は、あなたよ」
麻由美をソファーに寝かせるとクレズは甘美な感覚の残る秘所に指を潜り込ませた。
(あぁぁぅぅん…また…イッちゃいそう…)
そして秘所から取り出された今までとは異なる輝きを放つ指を麻由美の秘所にゆっくりと沈めてゆく。
(これであなたは…完全に私のモノ…)
「『ミメイル』。ずっと、イイ気持ちのままで居たいでしょ」
「…ハ…イ……あぅん…もっと…」
「じゃあ、私の『従者』になってくれる?」
その言葉を訊いた麻由美の瞳に『闇』が宿り、麻由美の心を『闇』に染めてゆく。
「ジュウ…シャ……………クレズ…サマ…ジュウシャ…スベテ…ササゲル…
 ワタシハ…クレズ…サマノ…ジュウシャ…スベテヲ…ササゲル…ジュウシャ…
 ワタシハ…クレズサマノ…ジュウシャ…スベテヲササゲル…ジュウシャ…
 ワタシハクレズサマノジュウシャ…スベテヲササゲルジュウシャ…
 私はクレズ様の従者…すべてを捧げる従者…」
言葉を繰り返すうちに麻由美の瞳に宿った『闇』はその輝きを増していた。
「クレズ様……私のすべてをクレズ様に捧げます。だから…だから…あぅっ…イクぅぅぅ…クレズさまぁぁ」
未だかつてない強烈な絶頂感に、麻由美はクレズに抱きつき快感に浸りながら深い眠りに堕ちていった。
「おやみなさい。私の可愛い『ミメイル』。生まれ変わった、あなたに会うのが待ち遠しいわ」


クレズは自分に抱きついたまま眠る麻由美をソファーに寝かせてその異変に気が付いた。
麻由美の秘所から自分のモノとは異なる輝きを放つモノが溢れ出していることに。
「まさかこれは……でも間違いない。『トロイウィルス』とも、私のモノとも違う。これは一体…」
麻由美から溢れ出す輝きを見つめて思案していたクレズはある事を思い出していた。
(そう言えば、ワーム総帥との『儀式』で覚醒した『覚醒者』が自身のウィルスを使って従者を作り出す際
 稀に『覚醒者』と同等もしくは、それ以上の能力を持った『亜種』と呼ばれる特別な従者が生まれる事が
 あるって、ワーム総帥が…………まさか、この娘がその『亜種』………麻由美…あなた…)
麻由美の寝顔を見ているクレズの表情は喜びに満ち溢れていた。


身も心も捧げる者 -2-



一週間が経過した日曜日、医師弓永さやかの拘束から開放された紫苑裕未は双子の妹紫苑裕香の任務のサポートに就いていた。
「不思議ですね。私はこの時代の人間ではないのに判らない物のほうが少ないなんて…」
裕未と裕香は自分のことを『るり』と名乗る女邪剣士ルリーザと街に来ていた。
「この知識は邪竜帝国に操られていたときに与えられたモノなんですね」
「石動博士から聞いた話では、るりさんは遥か昔、邪竜帝国と戦っていた私たちの先輩ってことでしたが」
紫苑裕未はさり気なく周囲を警戒しながら『るり』に話しかけた。
「はい 信じて頂けるかはわかりませんが、私は父と仲間たちと共に邪竜帝国の神殿から邪竜王が人を支配するために
 用意していた竜珠を盗み出し、その力を使って邪竜王を倒そうとしていました。ですが、私は神殿から逃げ出す途中で
 邪竜兵に捕らえられてしまって… それから先の記憶はありません。気が付けば石動研究所のベッドの上でした。
 石動博士のお話を伺い、文献も拝見させて頂きました。あれは間違いなく父の残した…」
「わたしは信じていますよ るりさん」
裕香が涙をこらえ話ている『るり』の肩に優しく手をやり微笑んで見せた。
「裕香さん…ありがとう  でも、裕未さんは私のことを…」
「ごめんね でも、るりさんはずっと姉さんを狙って…… 姉さん」
「ええ、ずっとついて来る。おそらく邪竜兵ね」
服装と不釣合いなサングラスをかけた集団が裕未たち三人のあとをずっとつけていた。
「ここでアイツらに襲われるのはマズイ。わたしが囮になって引きつけるから裕香はるりさんをお願い」
「うん 気をつけて、姉さん。 るりさん、遅れないでついて来て下さい」
「えっ、あ、はい 私の所為で…すみません 裕未さん」
「気にしないで、これがわたしの仕事だから」
冷たく言い放った裕未が相手の存在に気付いたフリをして走り出すと
裕香と『るり』は人ごみを利用してその場を逃げ出した。



大通りから少し脇に入った路地で裕未は邪竜兵に囲まれた。
「ようやくあなたを追い詰めることができました」
裕未を取り囲んでいる集団の一角が開き、冷たい眼をしたギールが姿を現した。
「お前はギール!!」
「私のことを覚えてくれていたとは」
「なるほど、狙いは『るり』…ルリーザじゃなくて わたしだったみたいね」
「はい 我々は敗北した者などに興味はありません」
「情けない。爬虫類の考えた姑息なワナにひかかるなんて…」
裕未はドラゴンレッドに変身しようと胸の前で両手をクロスさせた。
「おっと危ない、竜珠の力は使わないで下さい」
ギールはカメの甲羅を裕未に見えるように取り出すとその模様の一つを鋭い爪の先で押した。
「な、なに?」
轟音とともにビリビリと空気が震え、人々の叫び声が裕未の耳に届く。
「ギール! なにをしたの!!」
「爆弾 と言う物です。 大人しくしてもらうために一つ使わせて頂きました」
「な、なんてことを…」
「私にこれを使わせたくなければ、大人しく言うことを聞いて下さい」
「卑怯なマネを… 正々堂々わたしと勝負したらどうなの!!」
「仲間が到着するまでの時間稼ぎですか?ムダです。それに私は躯よりも頭を使うほうが好きなので」
「チッ…爬虫類らしくないヤツ…」
裕未はクロスさせた腕を崩さずギールを睨む。
「で、わたしをどうしたいの!」
「紫苑裕未 我が主があなたにお会いしたいと申しております」
「邪竜王がわたしに? 爬虫類に興味を持たれても嬉しくないわ」
「ルリーザを倒した戦士と会って話がしたいと申しております」
「それってまさか わたしに爬虫類の巣に来いと? 冗談は顔だけにしてよ!!」
「わたしは『大人しく言うことを聞いて下さい』と申し上げたつもりですが…」
「ギール? アッ!!」
ギールの指が動き2度目の轟音が轟く。
「あなたはこの街を破壊するおつもりですか? こう見えてもわたしは気が短い、次は全ての爆弾を爆発させます。
 紫苑裕未 わたしと一緒に来てくれますね?」
「わ、わかったわよ… あなたの言うとおりにするわよ」
裕未は唇を噛みしめながら両手を上げて抵抗の意志が無いことを示すと、ギールは顎で邪竜兵に裕未を捕らえるよう指示した。
「汚い手でわたしに触るな!! もう抵抗はしない、大人しく指示に従うって言ってるでしょう」
話ながら両手を後頭部の後ろに回した裕未をギールはしばらく見つめて口元を歪ませた。
「いいでしょう。 さぁ、こちらに」
小さく頷き歩き出した裕未はギールたちに気付かれないよう紅い竜珠が付いたネックレスを外した。
(これを邪竜帝国に渡すわけには行かない…)
そして表通りに止めてある黒の1BOXに乗るよう指示された裕未は、つまづいたフリをして竜珠を路肩の植え込みの中に忍ばせた。
「こういう時は、これを着けるんですよね」
邪竜兵に挟まれて座っている裕未の顔にギールはアイマスクを被せると部下に車を発進させるよう命令した。



移動し続けた1BOXは昼間でも光が全く差し込まない黒い霧に包まれた森の中に止まった。
「ここからは少し歩いて頂きますが、その前に用意しておいたこれに着替えて下さい」
ギールが茶色い塊を裕未の膝の上に置いた。
「爬虫類の皮? どうしてあなたたちの皮なんかを身に着けなければならないのかしら?」
「別にそのままでも構いませんよ。ただ、この黒い霧は人体に影響はありませんが…」
ギールが窓を開けて部下が持っていたハンカチを車外に出すと、瞬時に黒く変色したハンカチがボロボロと朽ち落ちていった。
「裸で我が主とお話して頂く事になりますが、よろしいですか?」
「うっくぅぅ…  わかった、わかりました着替えます。 一人にして頂けますか?」
「おっと、これは失礼しました。我々は外でお待ちしております」
車内に一人になった裕未はルームランプの薄暗い明かりの中で、ギールから渡された首から下を覆い尽くす
邪竜兵の抜け殻のようなスーツのチェックをはじめた。
(邪竜兵の抜け殻みたい… 表面は乾燥してカサカサしてるのに柔らく伸縮性がある)
裏返して内側のチェックも怠らない。
(見れば見るほど気味が悪いスーツね…ツルツルして手触りは良いけど、全身に走っているこの血管みたいな筋と
 このクロッチの突起物は……中に入る大きさじゃないけど…)
スーツの内側、クロッチ部に身に着ければ陰部にあたる位置に親指の先くらいの突起物が一つ付いていた。
「イヤな感じだけど…特にこのイボの中に何かが入っている訳でも無さそうだし、裸で邪竜王と対峙するほうが…」
突起物を抓んで確認した裕未はスーツを座席の上に置くと衣服を脱ぎ、着替え始めた。
(邪竜王が私と会って話がしたい? いったい何を話すの… その後はどうなるのよ… 竜珠を奪われる訳にはいかないから置いて来たけど…)
今になって竜珠を植え込みに忍ばせた事を後悔した裕未の体が小さく震えだした。
(何を弱気になってるの裕未!! 爬虫類ごときに負けないで!!)
両手で両頬を打ち、気合を入れ直した裕未は意を決し、スーツに足を通した。
前に切り込みが入ったスーツに体を入れた裕未は、もしもの時に動作の邪魔にならないようしっかり体にフィットさせると
開いたままの胸元の弛みを引っ張り、微かに粘着性がある身頃の端通しを重ね合わせて車を降りると軽く体を動かしてスーツを体に馴染ませた。
裕未が気にしていたクロッチの突起も体に触れているハズだったが気になるものではなかった。
(へェ 意外と機能的じゃない体がスムーズに動く。 わたしの体の一部みたい…)
「よくお似合いです。我が主もお喜びになられることでしょう。 さて、行きましょうか」
「爬虫類に褒められても嬉しく…?」
(邪竜王が喜ぶ? どう言う意味よ…)
ギールの言葉が気になり、スーツで覆われた手を見つめた裕未は言い知れぬ不安を覚えた。
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